家計簿アプリのほとんどは、収入と支出を記録するだけの単式簿記です。複式簿記は同じ1つの取引を必ず2つの側面から記録する方法で、単式簿記では見分けがつかない「消えたお金」と「形が変わっただけのお金」を区別できるようになります。具体的な金額を使って、仕訳の基本ルールと家庭での使い方を解説します。
単式簿記では見分けられないもの
12月に給与250,000円を得て、そのうち生活費に180,000円、NISA口座での投資信託購入に30,000円を使ったとします。単式簿記の家計簿では、この2つはどちらも「出ていったお金」として同じ支出欄に記録され、支出合計は210,000円になります。収入250,000円から210,000円を引いた40,000円が黒字として表示され、一見すると問題のない月に見えます。
しかし実際に消えたお金は生活費の180,000円だけです。投資信託の30,000円は消えたのではなく、普通預金という資産が投資信託という資産に姿を変えただけで、家計全体の財産は減っていません。単式簿記はこの違いを表現する手段を持たないため、生活費も資産形成も同じ「支出」というラベルの下にまとめられてしまいます。
同じことはクレジットカード払いにも起こります。カードで支払った瞬間にお金が減ったわけではなく、後日引き落とされる約束(負債)が増えただけです。単式簿記は「消えたお金」「形が変わっただけのお金」「将来払う約束をしただけのお金」という性質の違う3種類の動きを、区別せずに1本の記録として扱ってしまいます。
この違いを知らないまま単式簿記の記録だけを見ていると、判断を誤ります。たとえば投資信託を買った月の支出が多く見えたからといって、翌月の生活費を無理に切り詰めてしまうようなケースです。実際には資産が形を変えただけで家計の財産は減っていないので、切り詰める必要はありません。複式簿記で正しく仕訳をしておけば、こうした誤った節約判断を避けられます。
お金の動きには「消えた」「形が変わった」「後で払う約束をした」の3種類があるんだよ。単式簿記はこれを全部まとめて支出にしちゃうから、投資で減ったのか生活費で減ったのか分からなくなる。複式簿記はこの3つを別々の科目で記録するんだ。
借方・貸方というルール
複式簿記では、1つの取引を必ず左右2つの側面に分けて記録します。左側を「借方(かりかた)」、右側を「貸方(かしかた)」と呼びますが、名前の由来を気にする必要はありません。単なる左右のラベルだと考えて問題ないです。すべての仕訳は、借方の合計金額と貸方の合計金額が必ず一致するように記録します。これを貸借平均の原理と呼び、この一致が崩れないという性質のおかげで、記帳ミスがあれば必ず気づける仕組みになっています。
迷いやすいのは、資産・負債・純資産・収益・費用という5つの要素それぞれに「増えたときにどちら側へ書くか」という決まった位置があることです。次の表が基本ルールです。
| 要素 | 増えたとき | 減ったとき |
|---|---|---|
| 資産(現金・預金など) | 借方 | 貸方 |
| 負債(未払金・ローンなど) | 貸方 | 借方 |
| 純資産 | 貸方 | 借方 |
| 収益(給与収入など) | 貸方 | 借方 |
| 費用(食費・住居費など) | 借方 | 貸方 |
迷ったときの判断基準
この表を丸暗記するより、資産と費用は借方が「定位置」、負債・純資産・収益は貸方が「定位置」だと考えると覚えやすくなります。定位置にあたる側に動きがあれば増加、反対側に書かれていれば減少です。たとえば現金(資産)が増えたら借方、借入金(負債)が増えたら貸方に書く、と定位置さえ覚えれば増減どちらの仕訳にも迷いません。収益は「お金をもらった」という感覚から借方だと誤解されがちですが、収益の定位置は貸方です。資産が増える側と収益が発生する側を混同しないよう注意してください。
「借りる」「貸す」という言葉の意味は忘れていいよ。資産と費用は借方が定位置、負債・純資産・収益は貸方が定位置。これだけ覚えれば、増えたか減ったかで書く場所がすぐ決まるんだ。
家庭の取引で仕訳を練習してみる
日付を追いながら、実際の家庭の取引を仕訳にしてみます。
例1 12月3日、食料品を現金2,000円で購入した
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 食費 | 2,000円 | 現金 | 2,000円 |
食費という費用が発生したので借方に、現金という資産が減ったので貸方に書きます。借方2,000円と貸方2,000円が一致しています。
例2 12月25日、家賃80,000円をクレジットカードで支払った
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 住居費 | 80,000円 | 未払金 | 80,000円 |
カード払いは実際の口座引き落としが後日になるため、支払いの約束である未払金という負債の増加として貸方に記録します。引き落とし日には次の仕訳で未払金を減らします。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未払金 | 80,000円 | 普通預金 | 80,000円 |
例3 12月27日、給与250,000円が普通預金に振り込まれた
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 250,000円 | 給与収入 | 250,000円 |
ここで初めて収益が登場します。給与収入という収益が発生したので貸方に、それを受け取った普通預金という資産が増えたので借方に書きます。単式簿記の家計簿でいう「収入」の記録に対応する仕訳です。
例4 12月28日、普通預金からNISA口座で投資信託を30,000円分購入した
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 投資有価証券 | 30,000円 | 普通預金 | 30,000円 |
借方も貸方も資産科目です。普通預金という資産が減り、投資有価証券という資産が増えただけで、費用も収益も発生していません。冒頭で説明した「形が変わっただけのお金」がそのまま仕訳になった形です。
貸借が一致しないとどうなるか
複式簿記の最大の利点は、記帳ミスをその場で検出できることです。たとえば例2で「住居費80,000円」の借方だけを記帳し、相手科目の未払金を入力し忘れたとします。すると借方合計と貸方合計がずれてしまい、貸借平均の原理が崩れます。このズレは単式簿記では起こり得ません。単式簿記は片側しか記録しないので、そもそも一致するかどうかを確認する仕組み自体がないからです。複式簿記は必ず両側を記録するからこそ、入力ミスに自分で気づける構造になっています。
仕訳は必ず借方と貸方の両方をセットで入れるのがルールだよ。片方を書き忘れると合計がずれて、そこでミスに気づける。これが複式簿記の一番のメリットなんだ。
BokiBookで実際にやってみる
BokiBookの仕訳入力画面では、借方・貸方それぞれで勘定科目を選び、金額を入力するだけで複式簿記の仕訳が完成します。借方合計と貸方合計が一致していないと登録ボタンが押せないため、上で説明した「貸借が一致しない入力ミス」は、そもそも保存できない形で防がれます。
仕訳を積み重ねていくと、5つの要素は自動的に3つの決算書に姿を変えます。損益計算書には収益と費用が集計され、貸借対照表には資産・負債・純資産が集計されます。
最初は借方・貸方のどちらに書くか迷って当然だよ。資産と費用は借方が定位置、負債・純資産・収益は貸方が定位置。この2行さえ覚えれば、あとは仕訳を入力するたびに手が覚えていくよ。まずは今日の買い物ひとつから始めてみよう。