車が事故で修理不能と判定されると、車はもう手元にありません。けれども家計簿の上では、まだ資産として残り続けています。この資産をどう消し込み、保険会社から受け取る保険金をどう記録するのか、そして自動車ローンの残高はどうなるのかを、具体的な金額の仕訳で整理します。

修理不能と判定された日、家計簿には何が起きているのか

事故で車が大破し、修理工場や保険会社の査定の結果、修理代が車の価値を上回るため修理せずに廃車にすると判断されるケースがあります。これが全損です。全損になった瞬間、車そのものは手元から無くなりますが、家計簿の中では話が別です。車を買ったときに車両運搬具という資産として計上し、毎月少しずつ減価償却費を費用に計上してきたのであれば、その車はまだ帳簿の上で金額を持った資産として存在しています。

単式簿記の家計簿アプリであれば、車の購入やローンの返済はすでに記録された支出として処理済みなので、事故の時点で特に何も記録しない人がほとんどです。保険金が振り込まれた日になって初めて、その保険金をどう扱うかという問題にぶつかります。車両保険の査定額をそのまま収入として記録してしまうと、事故によって実際に家計がいくら損をしたのかが帳簿のどこにも残りません。査定額と、車が帳簿の上で持っていた価値は、そもそも別の基準で決まる別の数字だからです。

複式簿記で車を資産として管理していれば、全損という出来事を「資産が無くなった」という事実と「保険金という収入が入った」という事実の、2つの別々の取引として記録できます。この2段階に分けて考えることが、この記事の出発点になります。

どんぐり先生
どんぐり先生のまとめ

事故で車が無くなっても、帳簿の上の車はまだ消えていないんだ。査定額や保険金の金額とは関係なく、帳簿に残っている価値をまず正しく消し込む作業が必要だよ。これを忘れると、保険金だけが収入として浮いた記録になってしまうんだ。

除却損とは何か 売却との違いを整理する

固定資産を帳簿から消し込む方法には、大きく2つの考え方があります。1つは以前の記事で解説した売却で、買い手が見つかり、下取り価格という対価を受け取って資産を手放す場合です。もう1つが除却で、買い手がつく見込みがなく、資産としての役目を強制的に終わらせる場合です。事故で修理不能になった車は、誰かに売って対価を得るわけではないので、除却にあたります。

除却の仕訳では、取得原価と減価償却累計額をどちらも帳簿から取り除き、その時点で残っていた帳簿価額をそのまま固定資産除却損という費用として計上します。売却のときのように「下取り価格との差額」を考える必要はありません。残っていた帳簿価額の全額が、そのまま丸ごと費用になるという点が、売却と除却の最大の違いです。

なぜ全額を費用にしてよいのか

売却であれば下取り価格という対価が入ってくるので、帳簿価額との差額だけを損益として扱います。ところが除却の時点では、対価はまだ何も確定していません。保険金がいくら出るかは、この時点ではまだ保険会社の査定を待っている状態です。資産としての価値を失った事実と、保険金という対価を受け取る事実は、発生するタイミングも金額の根拠もまったく別です。この2つを同じ1本の仕訳で処理しようとすると、保険金の査定が確定するまで資産を帳簿に残し続けることになり、いつまでも処理が終わりません。先に資産の消滅を確定させ、保険金は受け取れることが決まった時点で別に記録する、という2段階に分けるのが筋の通った処理です。

どんぐり先生
どんぐり先生のまとめ

売却は「下取り価格との差額」だけを損益にするけど、除却は「残っていた帳簿価額の全額」を損失にするんだ。保険金がいくら出るかは除却の時点ではまだ分からないから、資産を消す仕訳と保険金を受け取る仕訳は、別の日に別々に記録するよ。

家庭の取引を仕訳してみる

180万円で購入したコンパクトカーを、定額法・耐用年数6年、月額24,999円で減価償却している例で考えます。28か月が経過した時点で事故にあい、修理不能と判定されたケースです。

月額24,999円を28か月分積み上げると、減価償却累計額はおよそ700,000円になります。取得原価180万円からこれを差し引くと、帳簿価額は1,100,000円です。

例1 修理不能と判定され、車を除却した

除却が確定した時点の仕訳
借方金額貸方金額
減価償却累計額700,000円車両運搬具1,800,000円
固定資産除却損1,100,000円

減価償却累計額700,000円と車両運搬具1,800,000円をどちらも帳簿から取り除き、残っていた帳簿価額1,100,000円をまるごと固定資産除却損という費用に計上します。借方の合計1,800,000円と貸方の1,800,000円が一致し、この時点で車という資産は家計簿の上から完全に姿を消します。保険金がまだ1円も確定していない段階でも、この仕訳はこれで完結しています。

例2 保険会社から車両保険の保険金が振り込まれた

査定の結果、事故当時の車の時価は900,000円と算定されました。契約していた車両保険には自己負担分として免責金額が100,000円設定されていたため、実際に普通預金へ振り込まれた保険金は800,000円です。

保険金800,000円が普通預金に振り込まれた時点の仕訳
借方金額貸方金額
普通預金800,000円受取保険金800,000円

受け取った保険金は受取保険金という収益として計上します。例1の固定資産除却損1,100,000円と例2の受取保険金800,000円は、相殺せずにそれぞれ別の行として損益計算書に残ります。両方を合わせると、この事故によって家計の純資産は実質300,000円減ったことになりますが、その内訳が「車を失った損失1,100,000円」と「保険による補てん800,000円」のどちらから成り立っているのかが、記録として残り続けます。

実務の税務処理では、帳簿価額と保険金の差額だけをまとめて固定資産除却損として処理する簡便な方法も使われています。この方法でも結果として家計に残る損失の金額は同じ300,000円になりますが、事故による損失と保険による補てんがそれぞれいくらだったのかという内訳は残りません。BokiBookでは2本の仕訳に分けて記録する方法をおすすめしています。翌年以降に保険の見直しをするとき、今回の保険金がどこまで実際の損失を補えていたのかを振り返る材料になるからです。

保険金が帳簿価額を上回ったらどうなるか

契約から日が浅く、時価がまだ高い状態で全損になると、保険金が帳簿価額を上回ることがあります。たとえば査定額が1,200,000円で免責金額が設定されていない契約だった場合、保険金はそのまま1,200,000円になります。帳簿価額が1,100,000円であれば、差額の100,000円は保険金の方が多い状態です。

個人が資産の損害に対して受け取る保険金は、原則として所得税がかかりません。この非課税という扱いを理由に、差額の100,000円を家計簿にも記録しなくてよいと考えてしまう人がいますが、これは正しくありません。税金がかかるかどうかと、家計の純資産が実際に増えたかどうかは別の話です。保険金1,200,000円を受取保険金としてそのまま記録し、固定資産除却損1,100,000円との差額100,000円が、結果として家計の純資産を増やした分として損益計算書に残るようにします。税金の計算では非課税でも、家計簿の上では起きた出来事をそのまま記録するという考え方です。

自動車ローンが残っている場合の注意点

事故にあった車にまだ自動車ローンの残高が残っている場合、除却や保険金の仕訳とは別に、ローンという負債がそのまま残り続けるという点に注意が必要です。たとえばこの車に自動車ローンの残高が950,000円残っていたとします。保険金は800,000円しか受け取れないため、ローンの残高950,000円との間に150,000円の差が生まれます。これは俗にギャップと呼ばれる状態で、車という資産を失った後も、150,000円分のローンだけが家計に残ります。

受け取った保険金を自動車ローンの返済に充てた時点の仕訳
借方金額貸方金額
自動車ローン800,000円普通預金800,000円

保険金を受け取った仕訳とローンを返済した仕訳は、別の取引として分けて記録します。この返済によってローンの残高は950,000円から150,000円に減りますが、ゼロにはなりません。残った150,000円は、現金で一括返済するか、新しく買う車のローンに上乗せするかを自分で判断する必要があります。もし車両保険に入っていなかったり、対物保険だけで車両保険の契約がなかったりすると、保険金そのものが入らないため、固定資産除却損1,100,000円を抱えたまま、ローン950,000円の返済も続けていくことになります。車両保険が、資産を失った後のこの空白を埋める役割を持っていることが、数字を並べてみるとはっきり見えてきます。

どんぐり先生
どんぐり先生のまとめ

保険金とローンの残高は、たまたま近い金額になることもあるけど、本来はまったく別々に決まる数字なんだ。保険金で返済できなかった分のローンは、車が無くなった後もそのまま家計に残り続ける。この残り方を知っておくと、車両保険をどこまで手厚くするかの判断材料になるよ。

ここまでの内容を、実際にBokiBookで仕訳してみましょう。

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BokiBookで除却と保険金の仕訳を管理する

事故にあったら、まずBokiBookの固定資産台帳を開いて、今の帳簿価額を確認します。各種設定の中にある固定資産台帳には、登録した車の償却方法・耐用年数・現在の帳簿価格がまとめて表示されているので、除却損としていくらを計上すればよいかがその場で分かります。

BokiBookの固定資産台帳。コンパクトカーが定額法・耐用年数6年で月額24,999円、帳簿価格1,750,000円と表示されている
各種設定の固定資産台帳です。登録した車の償却方法・耐用年数・月額の減価償却費・現在の帳簿価格が一覧で確認できます。事故にあった直後にこの画面を開けば、固定資産除却損としていくらを計上すべきかを、保険会社の査定を待たずにすぐ把握できます。

帳簿価額を確認したら、除却の仕訳は仕訳入力画面から登録します。減価償却累計額・車両運搬具・固定資産除却損の3つを、借方と貸方にそれぞれ分けて入力します。保険金が確定したら、その日付であらためて普通預金と受取保険金の仕訳をもう1本登録します。

BokiBookの仕訳入力画面。借方と貸方に勘定科目と金額を入力する
仕訳入力画面です。借方・貸方それぞれの見出しの横にある+で入力欄を増やせるので、除却のように借方が2行になる仕訳もそのまま登録できます。合計が一致するまで登録ボタンが押せないため、金額の入れ間違いにもその場で気づけます。

自動車ローンが残っている場合は、貸借対照表の負債の部を確認しておくと、ローンの残高が車の有無とは関係なく独立して記録されていることが分かります。

BokiBookの貸借対照表。負債の部に自動車ローン1,773,334円など複数の負債科目が並んでいる
貸借対照表の負債の部です。自動車ローン1,773,334円が、クレジット未払金や住宅ローンと並ぶ負債科目の1つとして表示されています。車両運搬具という資産を除却で消し込んでも、この自動車ローンという負債は自動的には減りません。保険金で返済した分だけ、別の仕訳でこの残高を減らす必要があります。
どんぐり
どんぐりのまとめ

事故はつらい出来事だけど、家計簿の上では「資産を失った損失」と「保険金という収入」、そして「ローンという負債」の3つを別々に記録するだけだよ。1つずつ整理しておけば、保険の見直しや次の車選びのときにも、今回の数字がそのまま判断材料になるんだ。