友人に貸した3万円、実家から借りた10万円。こうしたお金の貸し借りを家計簿アプリにつけようとすると、多くの人が「支出」や「収入」の欄に入れてしまいます。しかし貸したお金はいつか返ってくる権利であり、借りたお金はいつか返す義務です。複式簿記の「貸付金」「借入金」という科目を使えば、この性質を帳簿の上でも正しく残せます。
貸付金・借入金とは何か
簿記3級で学ぶ「貸付金(かしつけきん)」は、他人にお金を貸したときに使う勘定科目です。貸したお金は将来返してもらえる権利なので、複式簿記では「資産」として扱います。逆に「借入金(かりいれきん)」は、他人からお金を借りたときに使う勘定科目で、将来返さなければならない義務なので「負債」として扱います。貸したお金も借りたお金も現金そのものは動きますが、その裏側で「資産が増えた/負債が増えた」という事実を記録するのが、複式簿記ならではの視点です。
家計でイメージしやすいのは、友人や兄弟・親から急な出費のためにお金を貸した・借りたというケースです。「友達に3万円貸した」「実家から引っ越し費用を10万円借りた」といったやり取りは、家計簿アプリでは単なる「支出」「収入」として処理されがちですが、それでは"いつか返ってくる/返さなければならないお金"という性質が記録から消えてしまいます。複式簿記であれば、これを資産・負債としてきちんと帳簿に残しておけます。
「支出」ではなく「資産の形が変わっただけ」と考える
友人にお金を貸したとき、家計の財産は減ったように感じますが、実際には「現金」という資産が「貸付金」という資産に姿を変えただけで、家計全体の資産の合計は変わっていません。逆に借りたときは、手元の現金は増えますが、同時に「いつか返す」という負債も同額増えるため、これも家計の純資産(正味の財産)を増やすものではありません。この感覚をつかんでおくと、家計の貸借対照表を見たときに、資産と負債の動きが素直に理解できるようになります。
貸したお金は資産、借りたお金は負債だよ。現金が減った・増えたという表面だけを見ると支出や収入に見えるけど、実際は財産の形が変わっただけ。だから貸付金と借入金は、損益計算書ではなく貸借対照表に載る科目なんだ。
「支出」「収入」で処理すると起きる問題と、贈与とみなされるリスク
借りた10万円を「収入」として記録してしまうと、その月だけ家計が急に黒字になったように見えます。逆に貸した3万円を「支出」にすると、使ってもいないお金を使いすぎたことにされてしまいます。どちらも実態とズレた記録です。
ただし家族間のお金の貸し借りには、単なる記録のズレでは済まない落とし穴があります。それは、返済の実態がないまま金額が大きくなると、税務上「贈与」とみなされるリスクがあるという点です。個人からの贈与には年間110万円の基礎控除がありますが、これを超える金額を無利息・無期限で貸したまま返済の実績が無いと、実質的には贈与だったと判断される可能性があります。特に住宅購入の頭金や車の購入資金など、まとまった金額を親から借りるケースでよく問題になります。
これを避けるには、金額や返済期日・返済方法を書いた金銭消費貸借契約書を作り、実際に毎月きちんと返済している記録を残すことが有効とされています。家計簿に貸付金・借入金として仕訳を残し、返済のたびに残高が減っていく履歴を積み重ねておけば、それ自体が「これは贈与ではなく貸し借りである」という記録の裏付けになります。
家族間の大きな貸し借りで一番のリスクは、返済の実績が無いと贈与とみなされてしまうことだよ。借入金の残高が仕訳としてきちんと減っていく記録は、これが貸し借りだったという証拠にもなるんだ。
家庭の取引を貸付金・借入金の視点で仕訳してみる
友人にお金を貸した場合と、家族からお金を借りた場合、それぞれの一連の流れを具体的な金額で見ていきます。
例1 9月5日、友人に現金50,000円を貸した
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸付金 | 50,000円 | 現金 | 50,000円 |
現金という資産が減り、代わりに貸付金という資産が増えます。家計の資産合計は変わらないため、これは「支出」ではなく資産の入れ替えにすぎません。
例2 10月5日、友人から一部20,000円が返済された
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 20,000円 | 貸付金 | 20,000円 |
貸付金の残高は50,000円から30,000円に減ります。分割で返してもらう場合でも、返済のたびにこの仕訳を1本入れておけば、あといくら回収できていないかが常に残高として分かります。
例3 12月5日、残り30,000円が利息500円とあわせて全額返済された
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 30,500円 | 貸付金 | 30,000円 |
| 受取利息 | 500円 |
元本の30,000円は貸付金の減少として資産の入れ替えで処理し、利息の500円だけを「受取利息」という収益科目で別に計上します。元本と利息を同じ科目でまとめてしまうと、貸付金の残高と実際に貸した金額がずれてしまうため、必ず分けて記録します。
例4 実家から引っ越し費用として100,000円を借りた
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 100,000円 | 借入金 | 100,000円 |
手元の現金は増えますが、同時に「返さなければならない」という借入金(負債)が同額増えます。家計簿にこの仕訳を残しておけば、通帳残高が増えた実感と、実は自分のお金ではなく返済義務のあるお金だという事実の両方を、帳簿の上でも一致させられます。
例5 借りた100,000円のうち50,000円を返済した
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 借入金 | 50,000円 | 現金 | 50,000円 |
借入金という負債が減り、現金という資産も減ります。返済のたびにこの仕訳を積み重ねていけば、「あといくら返せば完済か」という残高が家計簿上で自動的に把握できます。
元本の返済は貸付金・借入金という資産・負債の増減で、収入でも支出でもないよ。利息が付くときだけ、その分を受取利息や支払利息として別の行で計上する。この2つを混ぜないことが仕訳のポイントだよ。
返済が滞って戻ってこないとわかったときの仕訳
貸付金は必ず全額回収できるとは限りません。たとえば友人に20,000円を貸したものの、その後連絡が取れなくなり、回収の見込みが無いと判断せざるを得ないケースもあります。このとき、貸付金という資産をいつまでも帳簿に残しておくのは実態に合いません。回収不能と判断した時点で「貸倒損失」という費用科目に振り替えます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒損失 | 20,000円 | 貸付金 | 20,000円 |
資産として残しておくべきではないものを、実際に価値が消えた費用として処理し直す仕訳です。感覚としては悔しい仕訳ですが、資産の部に回収できないお金を残したままにしておくと、貸借対照表が実態より豊かに見えてしまいます。貸せる金額の上限を決めておく、借用書を作っておくといった予防策と合わせて、いざというときはこの仕訳で締める、という選択肢を知っておくと気持ちの整理もつきやすくなります。
貸付金・借入金を使うメリット
- お金の貸し借りを口約束で終わらせない:誰にいくら貸した・借りたかを帳簿上の残高として管理できるため、「あれ、いくら返してもらってたっけ」という曖昧さを防げます。
- 家計の実態を正しく損益計算書に反映できる:借りたお金を「収入」として計上してしまうと、その月だけ家計が黒字に見えるなど実態とズレた記録になります。負債として分けておくことで、収支の実態を正しく保てます。
- 贈与とみなされるリスクに自分で気づける:借入金の残高が返済のたびに減っていく記録があれば、これが貸し借りであることの裏付けになります。記録が無いまま金額だけが大きくなっている状態に、帳簿の残高で気づけます。
BokiBookで貸付金・借入金を管理する
BokiBookでは、勘定科目の管理画面から「貸付金」「借入金」といった簿記3級の科目を自由に追加できます。友人や家族にお金を貸したときは貸付金、借りたときは借入金として仕訳を1本入力しておけば、返済が進むたびに残高が減っていく様子を借方・貸方のルールに沿って確認できます。
特に貸付金は、補助科目を使って「誰に貸したお金か」を分けて記録しておくと、複数人にまたがるお金の貸し借りでも一目で状況を把握できます。うやむやになりがちなお金の貸し借りを、複式簿記の力で家計簿にきちんと残してみませんか。
貸したお金も借りたお金も、支出や収入の箱に入れないのが基本だよ。貸付金・借入金の残高を見れば、誰にいくら貸していて、あといくら返せば完済かがすぐ分かる。もし戻ってこなくなったら、貸倒損失で気持ちよく締めくくろう。