給与明細には、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税など、いくつもの天引き項目が並んでいます。ところが家計簿には振り込まれた手取り額だけを記録するという家庭が大半です。天引きされたお金がどこへ向かっているのかを、具体的な金額の仕訳例で複式簿記から見えるようにします。

「手取りだけ記録」の家計簿で消えていくもの

会社員の給与は、総支給額から社会保険料と税金があらかじめ差し引かれ、残った金額だけが口座に振り込まれます。多くの家計簿アプリはこの振込額だけを「給与収入」として記録します。数字がシンプルになる分、扱いやすいという利点があります。

ただし、天引きされた金額そのものは記録から完全に消えます。たとえば基本給が300,000円から320,000円へ20,000円昇給したとします。ところが社会保険料は給与の額に応じて決まるため、健康保険料と厚生年金保険料の負担も同時に増え、天引き合計が68,000円から73,800円へ5,800円増えたとすると、手取りの増加は14,200円にとどまります。手取りだけを見ている家計簿には「給与収入が14,200円増えた」としか映らず、20,000円の昇給のうち5,800円がどこに消えたのかは分かりません。

これは月々の変動に限った話ではありません。健康保険料と厚生年金保険料は、毎年9月ごろに直近3か月の給与額をもとに見直される「定時改定」という仕組みがあります。残業が多かった時期の給与をもとに保険料が決まり、それが翌年8月まで固定されるため、実際の働き方と天引き額のタイミングがずれることがあります。手取りの増減だけを追っていると、この保険料改定によるものなのか、単純な残業代の増減なのかを区別できません。

どんぐり先生
どんぐり先生のまとめ

2万円昇給しても、社会保険料も一緒に増えるから手取りは1万4千円しか増えないことがあるんだ。手取りの数字だけを見ていると、昇給分がどこへ消えたのか分からなくなってしまう。天引きの中身まで記録して初めて、差の理由が説明できるようになるよ。

給与明細の天引き項目を勘定科目に置き換える

複式簿記では、性質の違うお金の動きをそれぞれ別の勘定科目で記録します。給与明細の天引き項目も、性質ごとに次のように分類できます。

社会保険料は天引きされた月に確定する費用

健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料は、天引きされた時点で会社を通じて納付されるお金で、家計に戻ってくることはありません。年末調整のような精算もないため、天引きされた月の費用としてそのまま計上して問題ありません。

所得税の源泉徴収は「概算」で年末調整とつながる

所得税は少し性質が違います。毎月天引きされている金額はあくまで概算で、正しい年税額は年末に確定します。年末調整の記事で解説したとおり、12月か1月の給与で差額が還付または追徴されます。この記事では、毎月の源泉徴収額は費用としてそのまま計上し、年末調整の還付・追徴は年末調整の記事の仕訳をそのまま使う方法をおすすめします。所得税だけを仮払税金という資産科目でいったん受け止め、年末調整で確定額に置き換えるという、より厳密なやり方も可能ですが、その分だけ毎月の入力が増えます。どちらを選ぶかは、年末調整の記事と同じく、家計簿にどこまでの精度を求めるかで決める判断になります。

住民税は「今年の稼ぎ」ではなく「前年の稼ぎ」への課税

住民税は、前年1月から12月までの所得をもとに税額が計算され、6月から翌年5月まで12回に分けて給与から天引きされます。今の給与の額とは直接連動していないため、転職や産休などで今年の収入が下がっても、住民税の天引き額はすぐには下がりません。逆に、前年に大きく稼いだ翌年は、収入が落ち着いていても住民税の負担だけが重いままという状態が続きます。この時間差は、天引き額の中でも住民税だけが持つ特徴です。

財形貯蓄は消えたお金ではなく資産の移動

財形貯蓄や社内預金がある場合、その天引き分は費用ではありません。普通預金から財形貯蓄という別の資産へお金の置き場所が変わっただけで、家計の資産合計は減っていません。天引き項目をひとまとめに費用として扱ってしまうと、この資産の移動まで支出として記録され、本当は減っていない純資産が減ったように見えてしまいます。

どんぐり先生
どんぐり先生のまとめ

天引き項目は全部同じに見えて、実は性質がバラバラなんだ。社会保険料は戻ってこない費用、所得税は概算で年末調整とつながる費用、住民税は前年の所得への課税、財形貯蓄は資産の置き場所の移動。ひとまとめにせず、性質ごとに分けて記録するのが複式簿記の考え方だよ。

家庭の給与明細で仕訳を作る

基本給290,000円に残業代30,000円が加わり、総支給額320,000円になったBさんの給与明細で仕訳を見ていきます。天引きの内訳は、健康保険料15,200円、厚生年金保険料29,280円、雇用保険料1,920円、所得税の源泉徴収6,400円、住民税16,000円、財形貯蓄5,000円で、天引き合計は73,800円です。差し引き支給額は246,200円で、この金額が普通預金に振り込まれます。

給与が振り込まれた時点の仕訳
借方金額貸方金額
普通預金246,200円給与収入320,000円
健康保険料15,200円
厚生年金保険料29,280円
雇用保険料1,920円
所得税6,400円
住民税16,000円
財形貯蓄5,000円

貸方は総支給額320,000円を給与収入という1本の収益科目で計上し、借方は普通預金への入金246,200円と、6つの天引き項目に分けて記録します。借方の合計は246,200円に73,800円を足した320,000円になり、貸方の320,000円と一致します。普通預金だけを見れば手取り額の246,200円しか分かりませんが、この仕訳を入れておけば、総支給額と天引きの内訳が家計簿の記録として残ります。

賞与月はこの仕訳をそのまま使わない

賞与は社会保険料の計算方法が月給とは異なり、上限額の扱いも別に決まっています。この記事の仕訳はあくまで毎月の給与向けで、賞与の仕訳は賞与の記事で別に解説しています。同じ月に給与と賞与が両方振り込まれる場合は、2本の仕訳に分けて入力してください。

ふるさと納税をした翌年は住民税の天引き額が変わる

前年にふるさと納税をしている場合、その年の住民税天引き額には控除が反映されています。ふるさと納税の記事で解説した未収金は、この住民税の天引き額が控除分だけ下がることで取り崩されます。毎月の住民税を16,000円のまま一定額で記録している家庭で、6月だけ住民税が2,333円下がっていたら、それはふるさと納税による控除が反映されたサインです。天引き項目を分けて記録していなければ、この変化には気づけません。

どんぐり先生
どんぐり先生のまとめ

借方に6つの天引き項目と普通預金、貸方に給与収入1本。これで総支給額320,000円がすべて説明できるんだ。賞与の月は別の仕訳になるから混ぜないこと。住民税の天引き額が急に下がる月があったら、ふるさと納税の控除が効いた合図だよ。

ここまでの内容を、実際にBokiBookで仕訳してみましょう。

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BokiBookで給与明細の天引きを記録する

多くの家庭では、これまで通り手取り額をそのまま給与収入として記録するだけで十分です。損益計算書を開けば、収益の部に給与収入が事業収入などと並んで表示され、収入の全体像はそれで把握できます。

BokiBookの損益計算書。収益の部に給与収入320,000円と事業収入50,000円が別の行で表示されている
損益計算書の収益の部です。給与収入が事業収入とは別の行で表示されており、収入の種類ごとの内訳がひと目で分かります。この記事のように天引き項目まで分解したい場合は、給与収入の下に健康保険料や所得税などの費用科目を追加していきます。

天引きの内訳まで残しておきたい場合は、勘定科目の管理画面から健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税、財形貯蓄といった科目をあらかじめ追加しておきます。科目の追加方法は勘定科目のカスタマイズ方法の記事で解説しています。科目を用意したら、仕訳入力画面で貸方に給与収入と金額を入力し、借方の+ボタンで入力欄を増やしながら、普通預金と6つの天引き項目を1行ずつ入力していきます。

BokiBookの仕訳入力画面。借方と貸方に勘定科目と金額を入力する
仕訳入力画面です。借方・貸方それぞれの見出しの横にある+を押すと入力欄が増えるため、この記事のように借方が7行になる仕訳もそのまま登録できます。貸借の金額が一致するまで登録ボタンは押せないので、天引き項目を1つ入れ忘れると気づける仕組みになっています。

一度この形式で入力すれば、毎月の総勘定元帳や損益計算書に健康保険料や所得税の推移がそのまま残ります。保険料が改定された月や、住民税が控除で下がった月も、金額の変化として記録に残るため、給与明細を見返さなくても家計簿だけで変化の理由をたどれるようになります。

どんぐり
どんぐりのまとめ

毎月全部の天引き項目を分けるのは大変に思うかもしれないけど、一度科目を作ってしまえば、あとは同じ形で入力するだけだよ。手取りの増減に一喜一憂する前に、何が増えて何が引かれているのか、明細と同じ内訳を家計簿にも残してみてね。