年金は毎月ではなく、偶数月にまとめて2ヶ月分が振り込まれます。しかも振込額には、あらかじめ介護保険料や住民税が天引きされています。振込額だけを収入として記録すると、実際に受け取る権利があった金額と、天引きされたお金の中身がどちらも見えなくなります。複式簿記でこれをどう記録するか、具体的な金額の仕訳例で解説します。
年金は2ヶ月に1回、しかも後払いで振り込まれる
公的年金は、偶数月の15日に前2ヶ月分がまとめて振り込まれる仕組みになっています。たとえば6月15日に振り込まれるのは4月分と5月分です。会社員時代の給与のように、働いた月の後にすぐ振り込まれるわけではありません。この後払いという性質を知らずに家計簿をつけると、振込があった月とその前月とで、収支が実態以上に大きく上下して見えてしまいます。
さらに見落とされやすいのが、退職してから実際に年金の振込が始まるまでの空白期間です。定年退職と同時に年金がもらえるわけではなく、年金事務所での請求手続きを経て、初回の振込までには数ヶ月かかるのが一般的です。3月に退職した場合、初回の振込が届くのは早くても夏以降になることが珍しくありません。この間は給与も年金も無い月が続くため、退職前にどれだけ貯蓄を用意しておくかという家計の判断に直結します。
退職した月から年金が始まるわけではない
この空白期間は、貯蓄の取り崩しという形で家計に現れます。普通預金の残高が減っていく数ヶ月を「収入が途絶えた」と記録するだけでは、それがいつまで続くのかが分かりません。退職後の生活費をあらかじめ見積もり、その金額を家計簿上で追いかけておくと、初回の振込までに残高がどこまで減るかを事前に把握できます。
年金は偶数月に前2ヶ月分がまとめて振り込まれる後払いだよ。しかも退職してから初回の振込までには数ヶ月の空白があるんだ。この空白期間にいくら貯蓄を取り崩すことになるか、退職前に見積もっておくことが大切だよ。
振込額だけを記録すると、天引きされた保険料や税金が消える
年金の振込額は、支給が決定した金額そのものではありません。介護保険料、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、住民税、場合によっては所得税が、あらかじめ差し引かれた後の金額が口座に振り込まれます。これを特別徴収と呼びます。振込額だけを収入として記録すると、この天引きされた保険料や税金の内訳が家計の記録から消えてしまいます。
なぜ厚生年金保険料や雇用保険料が天引き項目から消えるのか
会社員時代の給与明細を覚えている人ほど戸惑いやすいのが、天引き項目の顔ぶれが変わることです。在職中は健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料が天引きされていましたが、年金の受給者はもう保険料を払う側ではなく、受け取る側になっています。そのため厚生年金保険料の天引きは無くなります。雇用保険も、在職中と同じ形では適用されません。代わりに新しく登場するのが介護保険料と、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料です。給与の天引きと同じ項目が並ぶと思い込んでいると、この入れ替わりに気づかないまま記録を続けてしまいます。
介護保険料は65歳から、医療保険料は75歳で仕組みが変わる
65歳になると、年金から介護保険料が天引きされるようになります。65歳から74歳までは国民健康保険料が、75歳になると後期高齢者医療制度に切り替わり、後期高齢者医療保険料が天引きの対象になります。この切り替わりのタイミングで、それまでと天引き合計が変わることがあります。振込額の推移だけを見ていると、この制度上の切り替わりによるものなのか、年金額そのものが変わったのかを区別できません。
在職中の厚生年金保険料や雇用保険料は無くなって、代わりに介護保険料と医療保険料が天引きされるようになるよ。しかも75歳になると医療保険料の中身が国民健康保険料から後期高齢者医療保険料に切り替わる。振込額だけ見ていると、この入れ替わりには気づけないんだ。
家庭の取引を年金受給の視点で仕訳してみる
老齢基礎年金が月64,000円、老齢厚生年金が月81,000円で、合わせて月145,000円相当の年金を受給しているケースを例に、2ヶ月分290,000円が振り込まれた日の仕訳を見ていきます。
例1 所得税の源泉徴収もある、標準的な振込のケース
この年金額は年間に換算すると1,740,000円になり、65歳以上で所得税が源泉徴収される基準の158万円を超えています。そのため介護保険料14,000円、国民健康保険料9,800円、住民税8,000円に加えて、所得税5,140円が天引きされ、天引き合計は36,940円になります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 253,060円 | 年金収入 | 290,000円 |
| 介護保険料 | 14,000円 | ||
| 国民健康保険料 | 9,800円 | ||
| 住民税 | 8,000円 | ||
| 所得税 | 5,140円 |
貸方は支給決定額の290,000円を年金収入という1本の収益科目で計上し、借方は普通預金への入金253,060円と、4つの天引き項目に分けて記録します。借方の合計は290,000円になり、貸方と一致します。振込額の253,060円だけを見ていては分からなかった、支給決定額290,000円という本来の受給権が、この仕訳によって家計簿に残ります。
例2 年金額が少なく、所得税が源泉徴収されないケース
老齢基礎年金のみ月64,000円を受給し、年間換算で768,000円というケースでは、所得税源泉徴収の基準となる158万円を大きく下回るため、所得税は天引きされません。この場合、2ヶ月分128,000円の振込に対して、天引きされるのは介護保険料6,200円と住民税2,000円だけで、振込額は119,800円になります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 119,800円 | 年金収入 | 128,000円 |
| 介護保険料 | 6,200円 | ||
| 住民税 | 2,000円 |
同じ介護保険料や住民税という科目を使いながら、天引きされる項目数そのものが変わる点が、給与の天引きとの大きな違いです。年金額によって所得税の有無が切り替わるという基準を知らないと、なぜ天引き合計が人によって大きく違うのか説明がつきません。
扶養親族等申告書を出し忘れると天引き額が増える
所得税が源泉徴収される場合、日本年金機構などから毎年9月ごろに送られてくる扶養親族等申告書を提出しておくと、配偶者控除などが反映された低い税率で計算されます。この書類を提出し忘れると、控除が適用されない高い税率で源泉徴収されてしまい、翌年2月に届く振込から所得税の天引き額が急に増えることがあります。振込額をそのまま年金収入として記録しているだけでは、この増加が申告書の出し忘れによるものなのか、年金額そのものが変わったのかを見分けられません。天引き項目を分けて記録しておけば、所得税の行だけが増えていることにすぐ気づけます。
年金額が158万円を超えるかどうかで、所得税が天引きされるかどうかが変わるよ。扶養親族等申告書を出し忘れると、控除が使われない高い税率で天引きされてしまう。天引き項目を科目ごとに分けて記録しておけば、税率が上がったことにもすぐ気づけるんだ。
この考え方を使うメリット
- 本来の受給権が家計簿に残ります。振込額ではなく支給決定額を年金収入として計上するため、実際にいくらの年金を受け取る権利があったのかが記録として残ります。
- 介護保険料や医療保険料の負担を科目ごとに把握できます。65歳や75歳での制度の切り替わりによって天引き額が変わっても、どの科目が増減したのかを損益計算書で確認できます。
- 扶養親族等申告書の出し忘れに気づけます。所得税の行だけが突然増えていれば、申告書が反映されていない可能性を疑う手がかりになります。
- 確定申告が必要かどうかの判断材料になります。公的年金等の収入が400万円以下で、それ以外の所得が20万円以下であれば確定申告は不要という制度があります。年金収入と他の所得を科目ごとに記録しておけば、この基準を満たしているかどうかをすぐに確認できます。
BokiBookで年金の天引きを記録する
年金収入、介護保険料、国民健康保険料のような科目は、家計簿アプリの標準科目としては用意されていないことがほとんどです。BokiBookでは、勘定科目の管理画面からこうした科目を自分で追加できます。
科目を用意したら、仕訳入力画面で貸方に年金収入と支給決定額を入力し、借方の+ボタンで入力欄を増やしながら、普通預金と天引き項目を1行ずつ入力していきます。
入力を続けていくと、損益計算書の収益の部には年金収入という科目が独立して表示されるようになります。給与収入や事業収入のように性質の違う収入源を別の科目で記録しておくと、収入の内訳がひと目で分かるという点は、年金でも同じです。
在職中の給与明細の天引きについては給与の天引き項目の記事で、受給が始まる前の積み立て段階についてはiDeCoの記事で解説しています。科目の追加方法そのものは勘定科目のカスタマイズ方法の記事にまとめてあるので、あわせて読むと迷わず設定できます。
年金収入と天引き項目の科目さえ用意してしまえば、あとは2ヶ月ごとに同じ形で入力するだけだよ。振込額の増減に一喜一憂する前に、まず支給決定額と天引きの内訳を分けて記録することから始めてみよう。