新NISAを使って投資信託や株式の積立を始めた人は増えていますが、証券会社アプリの「評価額」と家計簿の残高が一致せず、戸惑うことがあります。この記事では、複式簿記の取得原価主義に基づいてNISA投資を有価証券として仕訳する方法と、含み益をなぜ記帳しないのかを、具体的な金額の仕訳で解説します。
NISAでの積立は「支出」ではなく「資産の交換」
家計簿アプリの多くは、NISAでの投資信託購入を「投資費」や「その他支出」としてまとめて記録してしまいます。しかしこの考え方だと、投資に回した分だけ毎月家計が赤字になっているように見え、実態を正しく表せません。
たとえば毎月30,000円を投資信託の積立に回している人がいたとして、これを支出として記録すると、1年間で360,000円もの「使ったことになっているお金」が家計簿上に積み上がります。ですが実際には、その360,000円は消えたわけではなく、投資信託という形に変わって手元に残っています。
複式簿記では、株式や投資信託を「有価証券」という資産科目で扱います。現金や普通預金を、同じ資産である有価証券に交換しただけなので、資産の合計額は購入の前後で変わりません。お金の置き場所が「預金」から「有価証券」に移っただけ、と考えるのが複式簿記の視点です。
投資信託を買っても、家計の財産はまったく減っていない。ただ「預金」という形から「有価証券」という形に変わっただけなんだ。だから支出ではなく、資産どうしの交換として記録するんだよ。
証券会社の「評価額」と家計簿の残高がなぜズレるのか
NISA投資を有価証券として記帳し始めると、多くの人がある疑問にぶつかります。証券会社のアプリを見ると評価額が日々動いているのに、家計簿の有価証券の残高はまったく動かない、という疑問です。
これは複式簿記の取得原価主義という原則によるものです。複式簿記では、資産を買った時点の金額(取得原価)で記帳し、その後値上がりしても、実際に売却して利益が確定するまでは帳簿の金額を書き換えません。含み益はまだ確定していない、将来変わるかもしれない利益だからです。
具体例で確認します。毎月30,000円ずつ12か月間、投資信託を積み立てたとします。取得原価の合計は360,000円です。年末に証券会社のアプリを開くと、値上がりして評価額が400,000円と表示されていたとしても、家計簿の有価証券残高は360,000円のままです。差額の40,000円は含み益であって、まだ家計簿には反映されない未実現の利益ということになります。
この40,000円が家計簿の数字に反映されるのは、実際に売却して利益を確定させたときだけです。逆に、年末の評価額が340,000円に値下がりしていても、売却しない限り家計簿の残高は360,000円のままで、含み損も計上しません。
ただ、この記録の仕方には弱点もあります。NISAを長く続けるほど評価額と取得原価の差は大きくなり、貸借対照表の純資産が「今の我が家の本当の財産」から離れていきます。家計簿で純資産を見たい人にとっては、ここが物足りないところです。そこで次の章では、評価額を帳簿に反映させるもう一つのやり方を紹介します。
証券会社のアプリの評価額は「今売ったらいくらか」を示す時価。家計簿の有価証券残高は「いくらで買ったか」を示す取得原価。買った金額のまま記録するなら、ズレていて当然なんだ。今の評価額で純資産を見たいなら、次の章のやり方を使ってね。
評価額を純資産に反映する「その他有価証券評価差額金」
評価額の上下を家計簿に反映させたいときに使うのが、「その他有価証券評価差額金」という純資産の科目です。簿記2級で習う会社の会計の考え方で、売買で稼ぐためではなく長く持ち続けるための株や投資信託を「その他有価証券」と呼び、その値上がりや値下がりを損益計算書を通さずに純資産へ直接入れます。
NISAの積立はまさに「長く持つための投資」なので、この考え方がよく合います。損益計算書を通さないのがポイントで、相場が大きく動いた月でも、毎月の黒字と赤字は給料と生活費だけで判断できます。
月末に評価額との差を仕訳する
先ほどの例で、取得原価360,000円の投資信託が、年末に評価額400,000円になっていたとします。差額の40,000円を次のように仕訳します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 有価証券 | 40,000円 | その他有価証券評価差額金 | 40,000円 |
これで貸借対照表の有価証券は400,000円になり、証券会社のアプリと同じ金額になります。増えた40,000円は純資産の部に「その他有価証券評価差額金」として表示され、損益計算書には何も出てきません。
翌月に相場が下がって評価額が385,000円になったら、前の月末から下がった15,000円だけを逆向きに仕訳します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| その他有価証券評価差額金 | 15,000円 | 有価証券 | 15,000円 |
こうして毎月の差だけを足し引きしていくと、評価差額金の残高はいつでも「今の評価額と、買った金額の差」を表すようになります。上の例なら残高は25,000円で、385,000円と360,000円の差にぴったり一致します。
会社の会計との違い
会社の会計では、期末に評価替えをしたら翌期の初めに元に戻す「洗替」という処理をします。家計でそこまでやる必要はありません。差を足し引きしていくだけで、純資産を正しく見るという目的は十分に果たせます。月に1回、証券会社のアプリで評価額を確かめる日を決めておくと続けやすいでしょう。
評価額の上下は、損益計算書じゃなくて純資産に直接入れるのがコツだよ。そうすれば毎月の黒字と赤字は相場に振り回されないし、貸借対照表は今の本当の財産を映してくれるんだ。
家庭の取引を有価証券の視点で仕訳してみる
NISA口座で投資信託を購入し、その後値上がり・値下がりして売却した場合、そして分配金を受け取った場合を例に、それぞれの仕訳を見ていきます。
例1 NISA口座で投資信託を50,000円分、普通預金から購入した
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 有価証券 | 50,000円 | 普通預金 | 50,000円 |
普通預金という資産が減り、有価証券という資産が増えるだけなので、資産の合計額は変わりません。損益計算書にも一切影響しない、資産どうしの振替取引です。
例2 保有していた投資信託(取得原価50,000円)を58,000円で売却した
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 58,000円 | 有価証券 | 50,000円 |
| 有価証券売却益 | 8,000円 |
取得原価の50,000円は有価証券という資産の減少として、値上がりした差額8,000円は「有価証券売却益」という収益として計上します。この8,000円が、含み益から確定した利益に変わった瞬間です。
例3 保有していた投資信託(取得原価50,000円)を45,000円で売却した
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 45,000円 | 有価証券 | 50,000円 |
| 有価証券売却損 | 5,000円 |
値下がりして売却した場合は、差額の5,000円を「有価証券売却損」という費用で計上します。損益計算書の費用として計上されるため、その月の当期純利益を押し下げます。売却しない限りこの損失は帳簿に現れないので、いつ売るかという判断がそのまま損益計算書の数字に直結します。
例4 分配金・配当金1,200円が普通預金に振り込まれた
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,200円 | 受取配当金 | 1,200円 |
NISA口座なので税金は差し引かれませんが、仕訳のしくみ自体は課税口座の配当金と同じです。受け取った分配金は「受取配当金」という収益として、損益計算書に反映されます。
例5 評価額を反映していた投資信託を売却した
前の章のやり方で評価額を反映していた場合は、売る前にひと手間かかります。取得原価50,000円の投資信託について、評価額の上昇分6,000円を記録していたとします。帳簿の有価証券は56,000円、その他有価証券評価差額金は6,000円です。これを58,000円で売却したときは、まず評価差額金を取り崩して、有価証券を買った金額に戻します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| その他有価証券評価差額金 | 6,000円 | 有価証券 | 6,000円 |
これで有価証券は取得原価の50,000円に戻ります。あとは例2と同じく、普通預金58,000円、有価証券50,000円、有価証券売却益8,000円で売却の仕訳をします。取り崩しを忘れると、売ったあとも評価差額金6,000円が純資産に残り続け、もう持っていない投資の含み益が帳簿に残ってしまいます。
売買で動くのはいつも「取得原価との差額」だけ。値上がりなら売却益、値下がりなら売却損。評価額を反映していたなら、売る前に評価差額金を取り崩して、買った金額に戻してから計算してね。
新NISAの非課税枠と売却タイミングの判断
2024年に始まった新NISAでは、非課税で保有できる上限額(生涯投資枠)が決まっている一方、保有している商品を売却すると、翌年にその売却分の枠が復活するという仕組みがあります。
たとえば生涯投資枠のうち300万円分を使って投資信託を保有している人が、その一部である取得原価50,000円分を売却したとします。仕訳そのものは前の章で見た例2・例3と同じで、有価証券が50,000円減り、差額が売却益または売却損として計上されるだけです。ですが非課税枠の面では、この売却によって翌年に50,000円分の枠が復活します。
家計簿の仕訳としては、枠の復活そのものを記録する科目はありません。複式簿記が記録するのはあくまで「お金や資産がいくら動いたか」であり、非課税枠という制度上の権利は仕訳の対象外だからです。ただし、有価証券の売却を検討するときは、貸借対照表に表示される有価証券の取得原価の残高を見ながら、どの分を売れば翌年どれだけ枠が復活するかを、証券会社の管理画面とあわせて確認するとよいでしょう。
非課税枠が復活するかどうかは制度の話で、仕訳そのものは変わらないんだ。ただ、有価証券の残高を家計簿で把握できていれば、どれを売るとどれだけ枠が空くか判断しやすくなるよ。
有価証券として記録するメリット
- 投資額が家計の赤字に見えなくなる:「支出」ではなく「資産の交換」として扱うため、NISAへの積立を続けても損益計算書が実態以上に悪化しません。
- 資産の内訳が貸借対照表で見える化される:現金・預金と有価証券がそれぞれいくらあるかが一目でわかり、「資産形成がどれだけ進んでいるか」を把握しやすくなります。
- 売却益・売却損が正しく成績に反映される:値上がり・値下がりの結果だけを損益として切り出せるので、投資による家計への実際のプラスマイナスが明確になります。
- 評価額を反映すれば、純資産が今の財産と一致する:その他有価証券評価差額金を使えば、毎月の収支を相場で振らさずに、貸借対照表だけを証券会社の評価額に合わせられます。
BokiBookで有価証券を管理する
BokiBookには、この記事で使った科目が最初から入っています。有価証券、その他有価証券評価差額金、有価証券売却益、有価証券売却損、受取配当金の5つです。自分で科目を追加しなくても、NISAの積立、評価額の反映、売却、分配金の受け取りをすぐに記録でき、貸借対照表と損益計算書の両方に自動で反映されます。投資をしない方は、勘定科目の管理画面から削除できます。
また、話しかけるだけで仕訳案を提案してくれるAIチャット仕訳機能では、どんぐりに「NISAで3万円積み立てた」と伝えるだけで有価証券の仕訳案ができます。「評価額が5000円上がった」と伝えれば評価差額金の仕訳、「分配金が1200円入った」と伝えれば受取配当金の仕訳を提案します。
積立は資産の振替、評価額の上下は評価差額金、売って確定したら売却益か売却損。この3つの使い分けを覚えておけば、NISAの記録に迷わなくなるはずだよ。毎月の収支は相場に振り回されず、純資産は今の財産を映してくれるんだ。