「今月は使いすぎた」と思ったら、実は先月クレジットカードで買った物の引き落としだった。そんな経験はないでしょうか。原因は、お金が動いたタイミングで記録するか、取引が起きたタイミングで記録するかという、簿記3級の「現金主義」と「発生主義」の違いにあります。クレジットカード払いと副業収入の2つの場面で、この違いを具体的な金額で見ていきます。
発生主義と現金主義の違いとは?
簿記3級では、取引をいつ記録するかについて「発生主義」という考え方を学びます。発生主義とは、実際に現金やお金が動いたタイミングではなく、経済的な取引そのものが発生したタイミングで記録するという考え方です。たとえば商品を仕入れた瞬間や、サービスを受けた瞬間に費用として計上し、代金を後で支払うかどうかは別の話として扱います。複式簿記はこの発生主義を前提に作られており、企業の会計はもちろん、簿記3級の仕訳問題もすべて発生主義で解くのが基本です。
これに対して「現金主義」は、現金や預金が実際に動いたタイミングでしか記録しないという考え方です。文房具店で売っているような1行タイプの家計簿(単式簿記の家計簿)は、「支出:食費 -3,000円」のように口座からお金が出た日・使った日をそのまま記録することが多く、結果的に現金主義に近い形になりがちです。日々の感覚としては自然な記録方法ですが、「いつの生活費が、いつ確定したのか」という視点が抜け落ちやすいという弱点があります。
お金が動いた日で書くのが現金主義、取引が実際に起きた日で書くのが発生主義だよ。1行タイプの家計簿は現金主義になりがちで、それが「使った月」と「記録される月」のズレを生む原因なんだ。
家庭の取引で「発生主義」と「現金主義」のズレを見てみる
このズレが最もわかりやすく表れるのが、クレジットカード払いです。4月20日にスーパーで8,000円分の食料品をクレジットカードで購入し、その代金が5月27日に口座から引き落とされたケースで比べてみましょう。
現金主義で記録した場合(単式簿記の家計簿)
お金が実際に動いた5月27日にだけ「食費 -8,000円」と記録します。この記録方法では、4月に実際は食料品を買って消費していたにもかかわらず、4月の家計簿には一切反映されません。逆に5月の家計簿には、5月に買った食料品の支出と、4月に買った食料品の支出(の引き落とし)が混ざって計上されることになります。
発生主義で記録した場合(簿記の家計簿)
購入した4月20日の時点で、いったん次のように仕訳します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 食費 | 8,000円 | クレジットカード未払金 | 8,000円 |
そして実際に口座から引き落とされる5月27日には、次のように記録します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| クレジットカード未払金 | 8,000円 | 普通預金 | 8,000円 |
この2つの仕訳によって、「食費として消費した事実」は購入日である4月に、「口座からお金が出ていった事実」は引き落とし日である5月に、それぞれ正確なタイミングで記録されます。しかも「クレジットカード未払金」という科目の残高を見れば、まだ引き落とされていない金額、つまり将来支払う予定の金額がいくらあるかも、家計簿の中で常に把握できます。
仕訳は2本セットだよ。買った日に費用と未払金を1本、引き落とされた日に未払金の取り崩しをもう1本。この2本があるから、消費した月と支払った月がずれても、どちらも正しく記録できるんだ。
発生主義は収入にも当てはまる 副業報酬が翌月払いのケース
発生主義というと支出の話だと思われがちですが、実は収入の側にも同じ考え方が当てはまります。副業やフリーランスの仕事では、報酬が「月末締め翌月末払い」となることがよくあります。8月中に納品を終えた仕事の報酬30,000円が、実際に口座へ振り込まれるのは9月末だった、という例で見てみましょう。
現金主義のまま記録すると、この30,000円は入金があった9月の収入としてしか記録されません。ですが実際に働いて成果を納品したのは8月です。8月にいくら稼いだかを知りたいのに、記録の上では9月まで収入がゼロに見えてしまいます。副業を始めたばかりの人が「今月は頑張ったのに家計簿上は収入が無い」と感じるのは、多くの場合この現金主義的な記録が原因です。
例1 8月31日、納品を完了し報酬30,000円が確定した
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未収金 | 30,000円 | 事業収入 | 30,000円 |
まだ現金は1円も動いていませんが、成果を納品して報酬が確定したという経済的な事実が8月中に発生しているため、この時点で事業収入を計上します。相手科目は、翌月受け取る権利を表す資産である未収金です。
例2 9月30日、口座に報酬30,000円が振り込まれた
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 30,000円 | 未収金 | 30,000円 |
9月には収益を新たに計上せず、8月に計上しておいた未収金を取り崩すだけです。こうしておけば、8月の損益計算書には8月に働いた分の収入30,000円が正しく現れ、9月の損益計算書には収入として二重には現れません。クレジットカードの未払金が「支払う義務」を表す負債だったのに対し、この未収金は「受け取る権利」を表す資産という、ちょうど鏡合わせの関係になっています。
発生主義は費用だけでなく収益にも使うよ。稼いだ月に収益を計上して、入金までのズレは未収金で埋める。クレジットカード未払金が支払う義務なら、未収金は受け取る権利。役割は逆でも考え方は同じなんだ。
なぜこの違いが家計管理で重要なのか
現金主義のまま家計簿をつけていると、「今月は使いすぎた」と感じた支出が、実は先月クレジットカードで買った物の引き落としだったというケースが起こります。逆に今月たくさん働いても、入金が来月になる分は今月の家計簿には表れず、生活実態と記録がずれてしまいます。
発生主義で記録すれば、「実際に消費・購入した月」の支出、「実際に働いた月」の収入として正しく計上されるため、当月の生活の実態を当月のうちに把握できます。同時に、クレジットカード未払金や未収金のような負債・資産科目の残高を見れば、「今後いくら支払う予定があるか」「あといくら入金される予定があるか」という将来の資金繰りも見える化されます。簿記3級で発生主義の原則を学ぶ意味は、単に試験に出るからというだけでなく、こうした「今の実態」と「将来の入出金の予定」を切り分けて把握できるようになる点にあります。
BokiBookで発生主義の記録を実践する
BokiBookでクレジットカード払いを記録する際は、まず購入した当日の日付で「食費」などの支出科目と「クレジットカード未払金」の仕訳を入力します。これで、口座からの引き落としを待たずに、その月の消費実態がすぐに家計簿へ反映されます。実際に引き落としが行われた日には、「クレジットカード未払金」から「普通預金」への仕訳をもう1件入力すれば、未払金の残高が減り、口座残高の減少も正しく記録されます。クレジットカード払いの仕訳をより詳しく知りたい場合は、クレジットカード払いの仕訳とは?の記事もあわせて読んでみてください。
副業収入も同じ考え方で、納品日には未収金と事業収入、入金日には普通預金と未収金の仕訳をそれぞれ入力します。この「未払金」「未収金」の残高は、貸借対照表(B/S)の負債の部・資産の部にそのまま表示されます。貸借対照表(B/S)・損益計算書(P/L)の見方の記事で紹介している画面を見れば、今どれだけの支払い予定・入金予定が残っているかを一目で確認できます。借方・貸方の基本的な考え方から復習したい場合は、借方・貸方の覚え方の記事も参考にしてください。
お金が動いた日だけを見るか、事実が起きた日を見るか。この違いを知っているだけで、家計簿の数字がぐっと信頼できるものになるよ。支出はクレジットカード未払金、収入は未収金。この2つの科目を覚えておこう。