定年退職や転職のときに受け取る退職金は、数百万円単位になることも珍しくありません。この大きな金額を普通の月収と同じ「収入」として記録すると、収支グラフが1か月だけ跳ね上がり、家計の実態がかえって見えにくくなります。複式簿記の勘定科目の分け方と、受け取り方によって記録が変わる注意点を、具体的な金額の仕訳例で解説します。
退職金を「今月の収入」に混ぜてしまうと家計の実態が見えなくなる
一般的な家計簿アプリで退職金をそのまま「収入」として記録すると、その月だけ収入が跳ね上がり、月ごとの収支グラフが大きく歪んでしまいます。結果として「今月は黒字だった」という数字が実態を表さなくなり、翌月以降の家計改善のヒントとしても使いにくくなります。
複式簿記では、性質の異なる収入を別々の勘定科目で管理します。毎月の給与を「給与収入」、退職金のような一度きりの大きな収入を「退職金収入」のように分けて記録すれば、通常の生活費と収入のバランスを見るときは給与収入だけを見ればよく、退職金による一時的な増加に惑わされません。以前紹介した賞与の仕訳と同じ考え方ですが、退職金は金額の規模も、人生で受け取る回数もまったく違う特別な一時収入として捉えるのがポイントです。
一時金でまとめて受け取るか、企業年金として分割で受け取るか
この記事だけの論点として、退職金の受け取り方には選択が発生する場合がある、という点を押さえておきましょう。会社によっては、退職金を一括の一時金として受け取るか、企業年金として複数年に分けて毎年受け取るかを選べる制度があります。この選択は、家計簿の作り方そのものを変えます。
一時金として受け取るなら、退職した年に1件の大きな仕訳を入れるだけで完結します。一方、企業年金として毎年300,000円を10年間受け取る形を選んだ場合は、退職金収入という科目を一度きりの仕訳で終わらせず、10年間にわたって毎年繰り返し記録する年金収入として扱う必要があります。どちらが得かは税制上の計算が絡むため一概には言えませんが、家計簿の設計としては「一度きりの臨時収入」と「数年続く定期収入」のどちらに当たるのかを、受け取り方を決めた時点で決めておくことが重要です。
一時金でまとめて受け取るなら1回の大きな仕訳で終わりだけど、企業年金として分割で受け取るなら、その後何年も続く定期収入として記録し続けなきゃいけないんだよ。受け取り方を選ぶ時点で、家計簿の作り方まで変わるということを覚えておいてね。
手取り額で記録すれば税金の計算まで気にしなくてよい
退職金には退職所得控除という大きな控除枠があり、勤続年数が長いほど税負担が軽くなるように設計されています。会社側で所得税・住民税が源泉徴収されたうえで振り込まれるため、家計簿としては振り込まれた手取り額をそのまま記録すれば十分です。控除額の計算式を自分で追いかける必要はなく、通帳に入金された金額を退職金収入として仕訳するだけで、家計の記録としては正確なものになります。
ただし、iDeCoにも加入している場合は注意が必要です。iDeCoの一時金も退職所得として扱われ、退職金と合算して退職所得控除の枠を分け合う仕組みになっています。同じ年、あるいは近い年にiDeCoの一時金と会社の退職金を両方受け取ると、控除枠を使い切ってしまい、想定より税金が多く引かれることがあります。家計簿の入力自体は手取り額をそのまま記録すれば済みますが、受け取るタイミングをずらせるかどうかは、事前に検討しておく価値があります。
家庭の取引を仕訳してみる
退職金を一時金で受け取り、その一部を投資に回すケースを例に、それぞれの仕訳を見ていきます。
例1 退職時に退職金2,000,000円が普通預金口座に振り込まれた
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 2,000,000円 | 退職金収入 | 2,000,000円 |
普通預金という資産が増え、退職金収入という収益が発生する取引です。給与収入とは別の勘定科目にしておくことで、損益計算書を見たときに「今月は退職金があったから収入が多い」とひと目で判断でき、通常月との比較を誤りません。
例2 退職金の一部500,000円をNISA口座に入金し、投資信託を購入した
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 有価証券 | 500,000円 | 普通預金 | 500,000円 |
普通預金という資産が、同じ資産である有価証券に交換されただけの取引なので、支出にはなりません。退職金の使いみちを、生活費として消費した分と、資産として形を変えただけの分に分けて記録できるのは、勘定科目を柔軟に扱える複式簿記ならではの強みです。NISA・株式投資の仕訳で紹介した考え方と同じ要領で記録できます。
例3 企業年金として、退職翌年から毎年300,000円を10年間受け取る場合
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 300,000円 | 企業年金収入 | 300,000円 |
一時金の退職金収入とは別に、企業年金収入という科目を用意しておくと、2年目以降も同じ科目で記録を続けられます。10年間の合計は一時金の場合と近い金額になっても、家計簿の上では「一度きりの臨時収入」ではなく「向こう10年続く定期収入」として扱われるため、生活費の予算をどのくらい年金収入に頼ってよいかの見通しが立てやすくなります。
退職金の仕訳で一番大事なのは、価値が消えたのか、形を変えただけなのかの見分けだよ。生活費に使った分は費用として消えるけど、NISAに移した分は資産のまま残っている。だから損益計算書には影響しないんだ。
収入を分けて記録するメリット
- 月ごとの収支比較が歪まない:退職金を給与収入と別科目にしておけば、通常月の家計簿と退職月の家計簿を同じ基準で比較できます。
- お金の使いみちを追跡できる:生活費に使った分と、NISAなどに再投資して資産として残っている分を、支出と資産振替に分けて把握できます。
- 貸借対照表に資産の増加として残る:退職金は一時的な収益であると同時に、家計の貸借対照表上では純資産の増加として長期的に記録され続けます。
- 一時金と年金形式の違いが記録に表れる:企業年金収入という科目を分けておけば、退職後の毎年の収入計画を立てるときに、何が一度きりで何が続く収入なのかを見失いません。
BokiBookで退職金を管理する
BokiBookでは、勘定科目の管理画面から退職金収入や企業年金収入のような収益科目を自由に登録でき、毎月の給与収入とは別に記録を分けられます。退職金の入金は数タップで仕訳でき、「スーパーで2500円使った」のように話しかけるだけで仕訳案を提案してくれるAIチャット仕訳機能を使えば、「退職金200万円が振り込まれた」と伝えるだけで仕訳案を作成できます。
退職金の一部をNISAに回した場合も、資産科目どうしの振替として記録しておけば、貸借対照表・損益計算書レポートで生活費として使った分と資産として残っている分を分けて確認でき、退職後の資産計画にもそのまま役立てられます。
退職金は科目を分けて、手取り額をそのまま記録するだけで十分だよ。一時金か企業年金かで記録の続き方が変わることだけ覚えておけば、退職後の家計もこれまでと同じ感覚で管理できるよ。